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長崎地方裁判所 昭和35年(行モ)1号 決定

申請人 飯野武夫 外六名

被申請人 長崎県

主文

申請人等の本件主たる申請および予備的申請をいずれも却下する。

理由

申請人等の本件申請の趣旨および理由は、別紙「申請の趣旨」および「申請の理由」に記載のとおりである。

まず、主たる申請について判断するに、右申請は、外形的にみれば申請人等の別紙目録記載の建物部分の占有に対する被申請人たる長崎県よりの妨害の阻止を内容とするものではあるけれども、その実体は、長崎県知事が土地区画整理法第七六条第四項、行政代執行法第二条に基き、申請人等居住の右建物部分に対し、家屋除却命令の代執行としてなす部分の執行停止を直接の目的とするものであることは、その申請の理由により明らかであり、したがつて、本件仮処分の申請は行政権の作用を阻止するためのものであるといわねばならない。

ところで、右のように仮の処分として行政庁の処分の執行を停止して行政権の発動を阻止することは、行政事件訴訟特例法第一〇条第二項に規定する執行停止の手続によつてのみなしうるところであり民事訴訟法に所謂仮処分の対象とならないこと、行政事件訴訟特例法第一〇条第七項によつて明らかであるから、右申請は不適法というべきである。

つぎに、予備的申請について判断するに、右申請は行政事件訴訟特例法第一〇条第二項に基き、長崎県知事のなす前記行政処分の執行停止を求めているものと解されるので、処分行政庁である長崎県知事を相手方とすべきものであるから、長崎県も相手方とする右申請はこの点においてすでに不適法というべきである。のみならず行政庁たる長崎県知事を相手方として右申請がなされたとしても右申請は所謂主観的予備的になされたものとして不適法であるばかりでなく、右申請の本案として当裁判所に係属している原告本件申請人等、被告本件被申請人間の昭和三五年(行)第二号占有妨害予防等請求の訴は、行政事件訴訟特例法第一〇条第二項にいう同法第二条の訴とは認められないから、右訴の係属を前提とする右執行停止命令はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

よつて、申請人等の本件主たる申請および予備的申請をいずれも却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 高次三吉 柏谷俊治 井上清)

(別紙)

申請の趣旨

(主たる申請)

被申請人は別紙目録記載の建物の内別紙図面中赤線で囲む部分に対する申請人の占有を実力をもつて妨害してはならない。

(予備的申請)

被申請人が申請外納富菊一に対する土地区画整理法第七十六条の家屋除去命令の代執行は、申請人等の別紙図面赤線の部分の占有を妨害する限度において本件当事者間の当庁昭和三五年(行)第二号事件の判決があるまで停止する。

との裁判を求める。

申請の理由

一、別紙目録記載の家屋は申請外納富菊一の所有にかかるものであるところ、申請人はその家屋のうち別紙図面赤線の部分にそれぞれ賃借居住している。

二、被申請人は申請人等に対し本件家屋は土地区画整理法第七十六条に違反するものであるから、同法第七十六条第四項、行政代執行法第二条第三条により家屋除去命令の代執行を昭和三十五年二月二十三日になすので、事前に動産を搬出すべく、しからざるときはその搬出による損害に対して責任を負わない旨勧告して来た。

三、しかしながら被申請人が申請人等の同意を得ずしてその動産を搬出することは、申請人等の別紙赤線内の家屋部分に対する占有を妨害するものである。よつて申請人等は本日付で御庁に対し占有権妨害予防請求の訴を本案訴訟として提起した。

しかし、執行は明日(二月二十三日)であるので、本案判決を待つていては回復すべからざる損害をこうむるので、主たる申請たる仮処分の申請をなすものである。

四、仮りに右仮処分申請が行政事件訴訟特例法第十条第七項の規定の適用があるため却下さるべきものとすれば、申請人等は本案の訴訟を提起しているので、行政処分の停止命令の申請を予備的請求としてなすものである。

(目録省略)

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